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風花




 雪と氷に包まれた白い大地も、だんだん緩みつつあった。
陽が長くなり、日差しが暖かくなり、風が柔らかくなる。
そしてある日、空の色が変わるのだ。

 白く薄く透明に見えるほど鋭い青の色を宿す空が、淡く霞む柔らかな青になる。そんな空から落ちる、一片の雪華。真冬に降りつむ無慈悲な雪とは確かに違う、ひらひらと舞い落ちる大きな花びらのような雪。

 ああ、春の牡丹雪だ──人々は安堵の息をつく。
長く厳しい冬も終焉が見えた。今年も、なんとかこの冬を超えたのだ、と。

 まるで桜のようだ、と泰麒は思った。
冬の寒さがこんなにも厳しいこの国に降る春の雪は、懐かしい花びらを思わせる。それは、雪とは思えぬ柔らかさ、優しさを持つからかもしれない。

 淡い日差しに照らされて輝く雪を眺め、泰麒は言葉をなくした。
そんな泰麒に、李斎が気遣わしげに声をかける。

「──まだ寒うございます。中にお入りを」
「李斎……陽に照らされて、綺麗な雪だね」
「ああ、風花、というのですよ。晴天に降る雪です。そして、こんなふうに大きくひらひらと降る雪は、牡丹雪、というのです。──春が近いという印です」

 優しい笑顔とともに李斎は応えを返す。
泰麒は胸の中でその言葉を反芻する。風花、牡丹雪、と。
そして夢見るように呟く。

「──桜の花のようだと思った。やはり、春の報せ、なんだね……」
「──桜、とは、蓬莱の花でございますか」
「そう。あちらでは春を報せる花で、開花予想まであるんだよ。桜前線と呼ばれ、南から、二ヶ月かけて北上するんだ」
「さぞ、綺麗な花なのでしょうね」

 泰麒の言葉に耳を傾け、舞い落ちる風花を見上げた李斎は微笑んだ。泰麒はふと黙りこむ。戴は、まだそんなことを言っていられる国ではない。泰王ですら、まだ見つかっていないというのに。

「──台輔?」
「──李斎、何もできない麒麟でごめんなさい」

 俯く泰麒に、李斎は限りなく優しい笑みを見せる。

「泰麒、あなたこそが、戴に春を報せる御使いなのです。この牡丹雪のように、そして、あちらに咲くという、桜の花のように」

 泰麒は目を見張る。そして、風花のように淡い笑みを見せた。







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(05.04.05) 十二国桜祭り参加作品 Written by 速世未生様


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【未生さまによる後書き】

 初書きの泰麒です。

 北の国にもとうとう桜の開花予想が出ました。今年は5月3日だそうです。待ち遠しいとともに、去りゆく冬と雪を惜しんで書きました。




背景画像:EARTH GARDEN様 






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