FONT-SIZE →  ・・ ・・

[MENU]

花の眺め 花の行方 3




矢継ぎ早に繰り出される陽子の提案に圧倒されながらも、次第に皆が目を輝かせていく。

「そして人工的に中洲を作って水の勢いを殺していく。枝分かれさせた水路は田畑の用水に使用できるよう配備していけば、耕作が困難な土地も潤って収穫が増えて税収が上がる。
上流は厳しい渓谷が多くて広げるわけに行かないけれど、逆にそれを利用して『ダム』を作って水を溜め込み、船を使えるようにしていけば物と人の往来が増え交易が上がるかも」
「面白い提案ですね、主上。しかし、『だむ』とは如何様な物でございますか?」
浩瀚が興味深げに陽子に問いかけて、説明するのに苦労したが何とか理解はしてもらえた。

早速、計画の要綱を纏めるために浩瀚は御前を辞し、桓堆も情報を入手する為に退廷した。
景麒も自分の仕事を片付ける為に仁寿殿に帰り、陽子は後に残された遠甫に椅子を勧めて祥瓊に茶を頼む。一気に喋ったので喉が渇いていたのか陽子は温めに淹れてもらった茶をすぐに飲み干した。呆れながらも、茶のお替りを注いでくれる祥瓊と陽子との微笑ましいやりとりを好々爺然として見詰めながら、ひとしきり茶を飲んで遠甫は陽子に話しかけた。

「主上、先程の提案は蓬莱での知識によるものかな?」
「うん、そうなんだ。実はこちらに来る途中に桜の木を見つけて花見をしているうちにあちらの風景を思い出した。後は、小学校の時に行った遠足でダムに行った事とかをね」
景麒にばれたら『私が帰りたがっている』と余計な心配するから内緒にしておいてほしい、と陽子は二人に念を押しておく。茶碗を口元に運んでお茶を味わいながら頭の中の記憶を反芻していた。唯々諾々と過ごしていた日常の中でも、役立つ知識があった事に苦笑する。
「それでね、ここからは私の我侭なんだけどね…」


明朝の朝議にて浩瀚が纏めて提出した議題に官僚達は目を剥いた。前代未聞の治水事業に尻込みをする者も居たが、土木事業に優れた雁国より技師を招いて工事の援助を望む事を提案する事で何とか了承を得た。確かに大規模な事業だが税収が増える見込みが高いなど、明るい見通しに官の動きにも力が入ってくる。早速、案件に取り掛かれるように手続きを進めて、陽子も援助を頼む内容の言伝を延王に向けた鸞に託す。何しろ放浪癖のある尚隆だから作法を弁えて書簡を出すより確実に届く方法と言えば、これが最良の手段だからだ。

三週間程して延麒と共に尚隆が金波宮にやって来た。例の如く先触れなど無い電撃訪問だ。
鸞よりも速い到着に驚きながらも客殿で陽子が出迎えると、尚隆は笑いながら話し出した。
「面白い事を始めるらしいな。それに玄英宮に戻ると、何時脱けられるか分からんのでな」
「こちらの方が退屈しなさそうだからって尚隆が言うからさ、ついでに俺も逃げてきた訳」
小卓の皿に山と盛られた饅頭にむしゃぶりつきながら、延麒・六太も明るく笑って返した。






Back | Next







(05.04.05) 十二国桜祭り参加作品 Written by しましま様


[MENU]





背景画像:EARTH GARDEN様 






△Pagetop